「友人との共同事業が破綻」副業失敗から学ぶ、個人間ビジネスの契約とパートナーシップの落とし穴
副業における共同事業の魅力と潜むリスク
副業を考える際、一人で始めるよりも、特定のスキルやアイデアを持つ友人や知人と協力して始める「共同事業」に魅力を感じる方もいらっしゃるかと思います。お互いの強みを活かし、モチベーションを共有しながら進めることで、一人では到達できないスピードや成果を期待できるかもしれません。特に、会社でチームとして動くことに慣れている方にとって、身近な人との連携は自然な選択肢に思えることでしょう。
しかし、この共同事業こそ、個人事業としての副業において、思わぬ落とし穴となることがあります。特に、信頼関係を基盤に「なあなあ」で始めてしまうと、後々取り返しのつかない失敗に繋がりかねません。今回は、「友人との共同事業が破綻した」という失敗談から、個人間ビジネスにおける契約とパートナーシップの本質、そしてそこから学ぶべき教訓を探ります。
失敗事例:「儲かる話」に乗った友人との共同事業が暗礁に
ある40代のマーケターであるAさんは、Webデザインスキルを持つ大学時代の友人Bさんから「一緒に新しいWebサービスを立ち上げよう。きっと儲かるよ」と誘われました。以前から信頼していた友人からの話であること、自分のマーケティングスキルと友人のデザインスキルが合わされば成功するかもしれないという期待感から、二つ返事で共同事業を開始しました。
事業内容は、特定のニッチ層向けのオンラインコミュニティサイトの構築と運営です。役割分担は、Aさんが集客・マーケティング、Bさんがサイト構築・デザインと、それぞれの得意分野を活かす形となりました。
しかし、事業開始から数ヶ月後、問題が発生し始めます。 まず、役割分担は決めたものの、具体的な作業範囲や責任の所在が曖昧でした。「この機能は誰が担当する?」「トラブル時の対応は?」といった疑問が、話し合いの度に生じます。 次に、事業の進め方について意見の対立が深まりました。Aさんは早期の収益化を目指し有料機能の導入を主張しましたが、Bさんはまずはコミュニティの規模拡大を優先すべきだと譲りません。 さらに、お互いのコミットメント度にも差が出始めました。Bさんは本業が忙しくなり作業が滞りがちになりましたが、Aさんはそれを非難することもできず、不満が蓄積します。 最も深刻だったのは、収益がわずかに上がり始めたときのことです。事前に収益の分配方法や、費用負担について何も取り決めていなかったため、「折半でいいか」「いや、僕の方が稼働時間が長い」といった泥沼の議論に発展しました。
結局、事業は目標収益を達成することなく頓挫。それどころか、長年の友人関係まで悪化し、連絡を取らなくなってしまいました。Aさんは「儲かる話」に乗ったつもりが、時間も労力も、そして大切な友人まで失うという大きな失敗を経験したのです。
失敗の原因分析:信頼関係だけではビジネスは回らない
この失敗事例から、いくつかの複合的な原因が見えてきます。
- 事前の計画と目標設定の甘さ: 「儲かるよ」という曖昧な期待感だけで始まり、具体的な事業計画、達成すべき目標(KPI)、それぞれの役割の詳細、タイムラインなどが明確にされていませんでした。ビジョンが共有されていても、そこに到達するための具体的な道筋がなければ、途中で迷走するのは必然です。
- 契約書不在とルールの不明確さ: 最も致命的なのは、事業に関する一切の取り決めが口約束、あるいは信頼関係に基づく「言わずもがな」で済まされてしまったことです。これは、役割、責任、収益・費用分担、意思決定プロセス、そして最も重要な「事業がうまくいかなかった場合の撤退や解散の条件」が全く明確になっていないことを意味します。
- 期待値のずれ: お互いがこの事業にどれだけコミットできるのか、どれくらいの期間でどれだけの成果を期待しているのか、といったお互いの「期待値」が共有・調整されていませんでした。これにより、相手の行動に対して不満を感じやすくなります。
- 「友人」と「ビジネスパートナー」の混同: 普段の友人関係における「言わなくてもわかる」「遠慮」といった感覚が、ビジネスにおける明確なコミュニケーションや厳密な合意形成を妨げました。ビジネスにおいては、友人であっても「パートナー」としてドライに必要なことを取り決める必要があります。
本質的な教訓:ビジネスとしての厳密さとドライな合意の重要性
この失敗から得られる最も重要な教訓は、以下の通りです。
- 共同事業でも「ビジネス」としての厳密さが必要: 相手が誰であっても、家族や友人であっても、ビジネスとして共同事業を始める以上、そこにはプロフェッショナルな関係と明確なルールが必要です。「信頼しているから大丈夫」という考え方は、ビジネスにおいてはリスクでしかありません。
- 契約は信頼を「補強」するもの: 契約書は、相手を信頼していないから作るものではありません。むしろ、お互いの認識のずれを防ぎ、将来起こりうるトラブルを未然に防ぐことで、より強固な信頼関係を維持・発展させるためのツールです。曖昧さをなくすことが、関係性を守ることにつながります。
- パートナー選定はスキルだけでなく価値観も: 共同事業におけるパートナー選定は、互いのスキル補完性だけでなく、ビジネスに対する基本的な考え方、リスクへの許容度、仕事の進め方、そして何よりも「トラブルが発生した時に冷静に話し合えるか」といった人間的な側面も非常に重要です。
リスク管理と再発防止策:必ず「契約」を締結する
同じ失敗を繰り返さないためには、以下の具体的な対策を講じる必要があります。
- 事業開始前に契約書を作成・締結する: これが最も重要です。以下の項目は最低限盛り込むべきです。
- 事業内容と目的
- 各パートナーの役割分担と責任範囲
- 出資額(もしあれば)と経費負担の方法
- 収益の分配方法とタイミング
- 意思決定プロセス(特に意見が対立した場合の解決方法)
- 作業時間やコミットメントに関する取り決め(努力義務でも良いので合意しておく)
- 情報共有の方法と頻度
- 事業が継続困難になった場合の撤退条件、事業の清算・解散方法
- 紛争が発生した場合の解決方法(調停、訴訟など) 必要であれば、弁護士や行政書士といった専門家に相談し、契約書の作成を依頼することも検討すべきです。初期費用がかかっても、後々のトラブルを考えれば遥かに安上がりです。
- 詳細な事業計画を共有し合意する: 契約書の内容を具体化する形で、事業の全体像、ターゲット顧客、提供価値、収益モデル、マーケティング戦略、具体的なアクションプランなどを文書化し、お互いが納得いくまで話し合います。
- 定期的なコミュニケーションを徹底する: 最低でも週に一度など、定期的にミーティングの時間を設け、進捗状況、課題、懸念事項などをオープンに共有します。これにより、認識のずれや不満が大きくなる前に解消することができます。
- 撤退基準とプロセスを明確にする: 「いつまでにいくら稼げなかったら撤退する」「撤退する際の費用はどう分担する」といったことを事前に決めておくことで、感情的な対立を避け、冷静な判断で事業を終えることができます。
失敗を次に活かす考え方:経験値を上げるステップとして捉える
過去の共同事業の失敗がトラウマになっている方もいるかもしれません。しかし、その経験は決して無駄ではありません。
この失敗は、あなたが個人としてビジネスを行う上で、人間関係や契約といった側面でのリスク管理能力が不足していたことを教えてくれました。会社組織の中では当たり前に行われている契約締結やルール作り、そして多様な考えを持つメンバーとの合意形成といったプロセスを、個人事業主として主体的に行うスキルが身についたと捉えましょう。
今回の経験を活かし、次の副業では、パートナー選び、事前の話し合い、契約書の締結といったプロセスをより慎重に行うことができます。また、一人で事業を行う場合であっても、外部のパートナーやクライアントとの契約、そして自身の事業計画の厳密性に対する意識が高まっているはずです。失敗から得た教訓は、あなたのビジネスパーソンとしての経験値を確実に押し上げています。
結論:共同事業成功の鍵は「信頼」と「ルール」の両立
共同事業は、適切に進めれば非常に強力なビジネスの推進力となります。しかし、そのためには、相手への「信頼」と同じくらい、あるいはそれ以上に「ビジネスとしての明確なルール(契約)」が必要不可欠です。
かつて友人との共同事業で失敗した経験がある方も、今回の学びを活かせば、次はより健全で生産的なパートナーシップを築くことができるでしょう。失敗を恐れすぎず、しかし過去の教訓から学び、リスクを適切に管理しながら、副業の道を切り拓いていってください。あなたの過去の失敗は、未来の成功のための貴重な礎となるはずです。